陸路国境越えモバイル 結構難しい実態と対策
今回は、陸路国境越えモバイル通信にスポットを当ててみます。
難しいけどやってよかった陸路国境越えモバイル
国境を越えるとモバイルに何が起きるのか
国境は国の境であると共に、携帯電話の境でもあります。国から免許を受け運用
しているキャリア(携帯電話通信会社)の活動範囲は、基本的に国内に限定されて
いるからです(衛星携帯は除く)。
国境越えでA国からB国に入る場合の携帯電波の変化
携帯電話回線でのモバイル通信は、国境を越えると、接続していたキャリアの
電波が途絶えるので、中断します。この時、入国した国のキャリアに接続すれば
中断したモバイルを再開できます。
- ここでのモバイルは、移動しながらインターネット接続をする事です。この場合、どんな回線を使おうとも、インターネットに接続する限り、全く同じ内容のモバイルが行えです。
SIM調達がネックで再開困難な陸路国境越えモバイル
入国した国のキャリアに接続してモバイルを再開するには何が必要でしょうか。
それは接続しようとするキャリアのSIMカード(以降SIM)です。
- キャリアと接続するにはSIMが必須
キャリアとの接続は、SIMが必要です。上図の陸路国境越えの例では、国境までの経路ではA国キャリアのSIMが、国境通過後はB国キャリアのSIMがそれぞれ必要です。
言い替えると、入国した国のキャリアのSIMがないと、通信ができす、モバイル
は中断したまま再開できません。
陸路国境越えモバイルの問題がここで見えてきます。陸路国境越えではSIMの
調達が困難なのです。
- 空路や海路ではSIM調達が容易な場合が多い
大空港や国際港など空路や海路国境(入出国ポイント)には、多数の免税店に交じり、SIM販売店やコンビニなどSIMが調達できる店が営業している例が多く見られます。しかし陸の国境では状況が一転します。
一般的な陸の国境は、周辺に集落や民家がない陸の孤島にあり、入管の施設
だけがポツンとあるだけで、店舗はなど一切ありません。
アジアには、都市近郊で人々の往来が非常に激しい国境がありますが、香港と
中国の国境など特別な例を除き、免税店はおろか普通の店もなく、SIM調達は
期待できません(写真は緩衝地帯が設けられたカンボジア-ベトナム国境)。
SIM調達できないとモバイルはどうなってしまうのか
SIM調達できないと、通信手段がなく、モバイル空白区間ができてしまいます。
短いモバイル空白区間なら容認できますが、苦痛を感じるほど長時間、長距離
に及ぶ場合も多いのが現状です。
モバイル空白区間は、いつまでどこまで続くのか、つまりSIMは、いつどこで調達
できるようになるか、非常に知りたい所です。この点について一般論ですが予想
してみます。
- 徒歩で陸路国境越えの場合
運が良ければ、国境近郊の町や集落でSIMを調達できるかもしれません。
そこで調達できなかったら、結局目的地までSIM調達は無理でしょう。
- バスで陸路国境越えの場合
残念ながら、バスの終点までSIM調達は期待できません。
バスが国境を発つと、ドライブイン、サービスエリア、長距離バスターミナルで
トイレ・食事休憩を挟み、目的地まで走り続けます。しかし、途中休憩の施設
にSIM販売店がある例は少なく、SIM調達はまず無理だと思います。
結局SIM調達は、バスが終点ターミナル到着後、町に出てからになります。
目的地が都市でない場合は、それもできない可能性があります。
- 鉄道で陸路国境越えの場合
残念ながら、列車を降りるまでSIM調達は期待できません。
列車が国境を発つと、いくつかの駅に停車しながら目的地に向かいます。
途中駅では、停車時間やSIM販売店がないなどの理由で、SIMの調達は
期待できません。
結局列車が目的地に到着後、町に出てSIMを調達する事になります。
目的地が都市でない場合、SIM調達できない可能性があります。
- 筆者が味わった”苦痛の”モバイル空白区間:失敗例のご報告
1.ベトナム-中国国境から南寧
空白区間 約250km 6時間のバス移動
ベトナム出国後、緩衝地帯でモバイルが中断します。緩衝地帯を抜け
た先にある国境ビルで中国への入国手続きをしましたが、SIM調達は
できず、モバイル不能になりました。緩衝地帯が終わるとその先に中国側入管施設が見える
両国はかつての戦争当事国で、国境には非武装地帯(今は緩衝地帯)
が設定され、店舗は全くありませんでした。
国境からバスは高速道路を走行しますが、高速道路上で突然パトカー
に停止を命ぜられ、公安がバスに乗り込み、全員の身分証を確認する
など物々しい状況でした。
途中、立ち寄ったサービスエリアでは、SIM調達はできませんでした。
最終的にSIMを調達できたのは、目的地南寧の繁華街でした。
余談ですが、この時は直線距離で250Km程の高速道路のバス移動で
したが、移動時間に6時間も要したので”バスを間違えたのではないか”
と非常に不安を覚えました。こんな時マップで現在地確認ができれば
安心できたろうと思うと、モバイルの威力を再認識した次第です。
- 2、カンボジア-ベトナム国境からホーチミン
空白区間 約80km 2時間のバス移動
カンボジア出国後ベトナムSIMが調達できずモバイル不能になりました。
カンボジア側の国境施設
入管施設以外何もない国境で、SIM調達はできませんでした。国境から
ホーチミンまでのノンストップ移動の間、モバイル空白区間となりました。
ホーチミンでは、SIM調達はどこでもできるので、ホテル近くのコンビニ
でSIMを調達しました。
- 3.シンガポール-マレーシア国境からクアラルンプール
空白区間 約350km 5時間バス移動
マレーシアの都市、ジョホールバルの繁華街に至近のマレーシア側国境
は往来が激しい大規模施設にも関わらず、小さな売店が1軒あるだけで
SIM調達はできませんでした(写真)。
バスは国境ビルを出ると、食事休憩でドライブインに一回立ち寄った
だけで、そのまま350km離れたクアラルンプールに直行。その間SIM
調達はできませんでした(写真はドライブイン)。
終点のクアラルンプールTBSバスターミナル(マレーシア南部方面行の
長距離バスの発着場)には、MAXISのキャリアショップがありSIM調達
できました(写真)。
陸路国境越えモバイル空白区間に風穴を開ける
事前にSIMや通信手段を確保しておく方法
・・・でもやり方は色々
モバイル空白区間を作らないためには、国境を越える前に、国境の向こう側
のキャリアに対応するSIMや通信手段を確保しておく必要があります。
ここでは、国境の向こう側のキャリアに対応できる、SIMや通信手段の確保に
ついて考えます。
純正SIMはキャリアがある国でないと調達できない
純正SIMは、キャリアが存在する国の中だけで販売するものなので、入国した
後でないと調達できません。
例えば、国境手前の国の町角のSIM屋で「隣の国ならこの純正SIMがお買い得
ですぜ・・・」などと、都合良く勧められるケースはありえないと思います。
- SIM販売は政府の規制対象
プリペイドSIMを販売する事は、自国内での自由な通信を不特定多数の人に許す意味を持ちます。デマや扇動など、通信は悪用すれば国の安全を脅かす危険な存在なので、政府は治安維持や国防上の観点で重要な規制対象にしています。
- 問題を抱える国では、プリペイドSIMの販売を規制しています。アジア圏では、台湾、シンガポール、マレーシアは購入に身分証明が必要です。韓国では、最近までプリペイドSIMが販売されなていかった上、韓国国内で販売されて登録した携帯電話以外、通信できない規制がありました(今は解除)。
- 総合すると、キャリアの純正SIMを他国で”公”に販売される事はありえません。
それではどうしたら良いか : 陸路国境越え対策
陸路国境越えで、モバイル空白地帯を作らないために利用できる手段は、純正
SIMだけとは限りません。純正以外でも有効なSIMがある事に加え、携帯電話
通信回線を利用する別の方法があります。
ここでは、国境の向こうで有効に使えるモバイル空白防止策を考えてみます。
具体的な陸路国境越え対策には、次の4つが考えられます。
1.キャリア純正SIMをあらかじめ買っておく
- これから入国する国のキャリアの純正SIMを、あらかじめ買ってストックしておく方法です。
筆者のストックするタイのSIM
但し、キャリア純正SIMは、キャリアがある国でしか購入できないので、最低一度はその国を訪問し、SIMを買って来る必要があります。
結論として、頻繁に訪問する国への2回目以降の訪問では効果がある最良の方法ですが、そうでない場合は、余りメリットはありません。
日本で海外SIMを販売する会社や店舗から、目的の国のSIMを購入する方法もあります(筆者は利用経験がないので、これ以上コメントできません)。
2.訪問国のキャリアにローミング接続できるSIMを利用する
- 訪問する国のキャリアに、ローミング接続する機能を持つSIMを利用する方法です。
一般的に、ローミングは料金が高価なので、大量のデータ通信を行うモバイルには現実的でありませんが、どうしても通信を確保したい場合などに有効です。
香港の”3G International Roaming Rechargeable SIM Card”は使える
本SIMは、一日168HK$(約1700円)で容量無制限のローミング・データ定額通信が可能で(中国とマカオでは一日98HK$)、国境越えモバイルに有効です。
但し、ローミング対象国以外の国(マレーシアなど)では、データ定額でない従量制になるので注意が必要です。また、データ定額は申請しないと適用されない点も要注意です。SIM開通や、追加チャージは、ローミング対象国内で可能です。
詳細は当ブログ記事”香港”3”のプリペイドSIMを使いつくす 更にお得な日本人的利用法”をご参照ください。
- 日本のキャリアが提供する海外ローミング・データ定額を利用する方法です。
対象国に限り一日最大2980円でデータ定額(データ量無制限のデータ通信)が利用できます。料金的には少し高額ですが、国境越えの後、現地SIMが入手できない場合でもモバイルが継続できる点で、緊急避難的に利用には便利です。
海外データ定額を提供する日本キャリアの情報
NTTドコモ、ソフトバンク、au(KDDI)、イーモバイルがサービスを提供しています(以下参照 2012年10月現在)。
NTTドコモ:海外パケホーダイ
約25MBまで1980円/日、データ量無制限2980円/日
http://www.nttdocomo.co.jp/service/world/roaming/content/kaigai_pake_hodai/
ソフトバンク:海外パケットし放題
約10MBまで1980円/日、データ量無制限2980円/日
http://mb.softbank.jp/mb/international/roaming/area_price/packet/
au:海外ダブル定額
約25MBまで1980円/日、データ量無制限2980円/日
http://www.au.kddi.com/service/kokusai/packet/#ancService
イーモバイル:海外データー1日定額
約15MBまで1480円/日、データ量無制限2880円/日
http://emobile.jp/service/world_roaming/data1day.html
- サービスは、提供キャリアのユーザー(携帯回線所持者)が利用できます。また、あらかじめ日本でサービス利用申請が必要だったり、対象国・キャリアが限定されている場合があり、注意が必要です。間違って定額サービスが適用されないキャリアに接続したり利用申請をしていない場合、非常に高額な通信料(数十万円単位)が請求される危険がある通常ローミングでのデータ通信になります。詳細は、上記サイトをご参照ください。
海外パケット定額の利用が、複数の国にまたがる場合、同日の利用でも国毎に料金が発生するので要注意です。料金を抑えるには、モバイル困難国へ入国後にサービス利用を開始するなど注意が必要です。
4.ポケットWiFiやSIMレンタルを利用する
- ポケットWiFiやUSBモデム、SIMをレンタルする会社が日本にあるようです。
こうした会社はネットで”海外WiFiレンタル”などの
キーワードで検索すると複数ヒットします
筆者は利用した事がないので断定的なコメントはできませんが、一般的に
指定した国でモバイルができる状態に設定された機器やSIMを、成田等で
受け取る仕組みのようです。
訪問国の数に応じて料金が上がる場合もあり、国境越えを含む経路では
料金が高めになる可能性があります。
また、料金体系がレンタルの日数単位の場合が多く、複数の訪問国の内
利用はその内の一国だけと言うような場合でも、返却までの日数分の料金
が請求されるので、無駄な支払いが発生する可能性があります。
何れにしても、筆者は本サービスを利用した経験がないので、詳細は不明
です。
これら 1~4 の方法を組み合わせる事で、陸路国境越えモバイルの難度を
多少でも緩和できれば良いのですが、
今回は、陸路国境越えにスポットを当て、実態と対策と称して筆者の国境越え体験をまとめました。しかし世界の様々な国が、様々な方法で国境管理や携帯電話通信を運用している事を考えると、世界のモバイル全体像を捉えようなどと大それた本記事の意図は、全く不完全との筆者の心証です。
陸路国境越えモバイルは魅力的なテーマなので、チャレンジされるモバイラーも多いと思いますが、本ブログ記事を参考に、臨機応変に現地の状況に対応し、異国でのモバイルライフを堪能頂ければ幸いです。
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