誤診それとも故意? 250円の部品で治る修理が何で6万円なの? P社さん
個人で運営する事業の一つ、”パソコントラブル対応”で遭遇したパソコン修理事例です。
修理依頼品は、他業者の査定で修理代6万円を提示されていた
4年前に買ったNECの一体型デスクトップパソコン(Windows Vista)が起動しないので直してほしいとのご依頼です。
早速お伺いして状況を確認すると、パソコンの電源を入れてもディスプレイは暗黒のまま何も表示しません。HDDや冷却ファンの音は聞こえるので、電源は供給されているようですが、HDDアクセスランプが全く点灯しないのでWindowsが起動する状況ではないようです。
画面が暗黒の場合、ディスプレイや表示機能を疑うのが通常ですが、HDDアクセスランプが点灯しない点を考えると、システムが正常に働かないメインボード起因のトラブルと判断するのが妥当なようです。
故障までの経緯をお聞きすると、故障前日の動作やシャットダウンは正常で、設定変更や、周辺機器やアプリケーションの追加はしていないとの事で、誤操作やソフトウェアやドライバーのバッティングなどの問題から出た故障ではなさそうです。
特記事項として、当方に修理依頼をする前に、某パソコン量販店”P社”にパソコンを持ち込み、修理見積もりをした結果、「メモリー破損のため約6万円の修理代が必要」と査定された経緯があるようでした。お客様は金額が予想以上に高額だったため、結局修理を諦めたとの事でした。
その後、当”パソコントラブル対応”の存在を知り、セカンドオピニオンやダメモトで診てもらおうと今回の修理依頼になったとの事でした。
当”パソコントラブル対応”としては、某パソコン量販店”P社”の”メモリー破損”の診断結果をとりあえずの参考に、メモリーを正常品に交換するなどの対応を考えましたが、症状を再度検討すると、P社の誤診を示唆するいくつかの矛盾点が見つかりました。
某パソコン量販店P社の診断に対する疑問
- まず首をかしげるのは余りにも高額で中途半端な査定金額です
メモリー破損の修理は、破損したメモリーを正常なメモリーに交換するだけの簡単な作業なので、5~6万の査定は”いくら何でも”高すぎます。メモリー部品代に工賃・手数料を加えても2万円以下が妥当です。
同じ修理業者として善意に解釈すれば、破損したメモリーの駆動回路など周辺部品にも破損が及んでいる可能性を考え、その分の修理代を査定に上乗せした事が推測できます。しかしそうだとしたら、メインボード交換でしか対応できないメモリー周辺部品トラブルの査定金額は高額な8万円前後に跳ね上がる筈です。
要は、メモリーだけのトラブルなら査定は高過ぎるし、メモリー周辺回路のトラブルも含めた査定なら安過ぎで、どちらの場合も5~6万の金額は中途半端で首をかしげてしまいます。
- また症状にも腑に落ちない点があります
もしメモリー破損なら、電源投入直後にパソコンからビープ音などが鳴る可能性大ですが、それらしい音は全くしません。また、メモリーの故障は非常にレアケースであることも気になります。
以上総合すると、今回の故障はP社の診断と異なる原因による可能性が見えて来ます。
真の故障原因を究明するには、お客様のお宅での作業は無理なので、今回はパソコンをお引き取りの上で修理させて頂く事としました。
いざお引き取りしてみると・・・メモリーは正常だった
まず某パソコン量販店 P社のメモリー破損の診断が正しいか確認のため”メモリーテスト”を行いました。
破損しているとされたメモリーを故障パソコンから取り出し、別のテスト用パソコンに装着して動かしてみました。結果は問題なく動作します。つまりメモリーは正常です。これで故障原因はメモリーでない事が確定したと同時に、P社が誤診を犯した事が断定できました。
P社の診断が誤診で、メモリーが正常だと断定できれば、色眼鏡を通すことなく症状を正しく診断できるようになります。今回の故障をそうした観点から眺めると、可能性がある原因は”メインボード破損”に絞られて来ます。
- メインボードは、CPU、メモリーなどパソコンの大部分の回路が載った、パソコンそのものと言っても良い、中核部品です。
メインボード故障解析
メインボードの破損は、ハード的な破損と、ソフト的な破損の2つが考えられます。
もしメインボードがハード的に破損していたら
修理はメインボード交換しかありません。しかし販売から4年経過しているメインボードは、秋葉原で入手不可能です。結果として、修理在庫を持つNEC以外は修理できません。その場合、修理代は10万円以上になる可能性があり、一応ここでは8万円と仮定しても、修理するより新品パソコンを買ってしまう方が有利になります。
もしメインボードがソフト的に破損していたら
ソフト的トラブルには相当な手間をかけないと修理できないものもありますが、今回の症状から見ると、多少の手間と、万が一部品交換が必要になっても、秋葉原で購入できる一般的な部品で足りるので、修理代金が高額になる可能性は低いと判断できます。
今回の状況を引き起こすソフト的メインボード破損の修理は、次の二つの方法が有力です。
- 第一の方法は、放電です。
- 放電は電源を入れても”ウンともスンとも”言わない完全”だんまり”状態に有効な対応です。
- 方法はパソコンから電源ケーブルや周辺機器のケーブル(ノートパソコンはバッテリーも)を外した状態で、電源ボタンを30秒程押し続けるだけです。
- その後、電源ケーブルや周辺機器やバッテリーをつないて電源ボタンを押して起動できるようになれば成功です。
- 但し、症状を厳密に判断すると、電源を入れると完全”だんまり”でなく、HDDや冷却ファンが回る動きがあるので、今回に限りこの方法は期待できそうにありません。
- 第二の方法は、ボタン電池交換です。
- メインボード上のボタン電池(写真)が消耗すると、メインボードの基本データや機能が失われ、正常起動できなくなります。
- この場合、ボタン電池を新品に交換するだけで、破壊されたデータは元に戻り修理完了です。
- 参考:メインボードに使用するボタン電池は「CR2032リチウム電池」(写真)が一般的です。CR2032は非常にポピュラーで、100円ショップなどでも購入できます。
今回は第二の方法が効きそうなので、ボタン電池を交換してみました。
結果は大成功、ボタン電池交換でパソコン復活
PCの蓋をあけ、内部のメモリースロットの隣りのボタン電池ホルダー(写真)から古いボタン電池を取り出し、新品と交換します。続いて蓋を戻し、パソコンの電源を入れてみます。
結果、大成功! パソコンの画面が表示され、Windowsが正常に起動しました。
念のため取り外した古いボタン電池の電圧を測定した所、本来の3.2Vが約半分の1.7Vに低下していました。
請求金額は某パソコン量販店”P社"より安くなったか
最終的に、”当パソコントラブル対応”がお客様にご請求した修理代は5千円・・・、と言いたい所ですが、当初某パソコン量販店”P社”のメモリー破損の診断結果に従い、メモリーチェックなど不要な作業をしたため、最終的なご請求額は1万円ちょっとになりました。
しかし、不要な作業をしなければ、5千円で十分収まる作業内容だったので、某パソコン量販店”P社”の誤診がお客様に余分な出費を強いる結末になりました。、
- 注:当”パソコントラブル対応”の料金体系は、時間制です。つまり修理に要した時間に対する対価を頂くシステムで、余分な仕事をすると、経過した時間料金もご請求に加算されます。
以上が修理の顛末ですが、今回の事例は筆者を含むパソコン修理業界が抱える問題を浮き彫りにする結果になりました。
このような結末を迎えた修理を、かつて5~6万円と査定した実績があるP社に依頼していたら、一体いくら支払う事になっていただろうと素朴な疑問が沸いてきます。
筆者はこの答を持ち合わせていませんが、この疑問に代表される数々の問題がパソコン修理業界の世界に存在する事は認識しています。直接の答えになりませんが、ここから修理業界の問題を提起してみます。
パソコン修理業界に対する問題提起
今回浮き彫りにされたる問題に対するコメントは差し控えますが、業界として次の点は改善する必要があるのではないかと感じました。
- ●故障診断の精度の向上
今回の某パソコン量販店”P社”のような誤診が起きないための、サービス担当者のスキルアップやチェック体制の充実への取り組みが求められると思います
- ●修理作業の透明性
今回P社に修理を任せていたら、結局修理代はどれ程になったか興味があります。
- この場合”P社”は、6万円と査定した修理が1万円で完了してしまう事態に遭遇する訳で、結果として、正直に誤診を認めて1万円を請求するか、誤診を隠し、当初の査定金額の6万円を請求するか、P社の良心や誠意次第です。
- お客様は、修理報告書で作業内容を見ても、妥当性が判断できない上、本当に報告書の通り修理をしたかどうかすら確認できません。
- P社の良心や誠意次第で”どうにでもなる”業者有利の状況は恐ろしい想いです。今回は料金だけの問題でしたが、個人情報を含む大切なデータの取り扱いまで”どうにでもされる”事態は決して容認できません。
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筆者はパソコン修理業者として、貴重な情報が保存されたパソコンの修理を、信用できるかどうか不明ない第三者に託すのは危険に思えます。←でもこれでは誰にも修理を頼めない事になるので結局は誰かに修理は依頼せざるを得ない事も現実ですが・・・。
- お客様に修理内容や料金の妥当性を正しくチェックできる、透明性ある正直な報告書を提出する様、各社努力する必要があるとの見解です。
- ●セカンドオピニオンの体制
修理代金の査定が高額な場合、他の修理業者の意見、セカンドオピニオンが有効な事が今回の事例で判明しました。今後気楽にセカンドオピニオンが得られる体制を業界全体で考えるべきではないでしょうか。
- ●お客様の利益を考えて修理をしているか
今回”P社”は購入して4年経過したパソコンの修理に6万円の査定を出しました。お客様の利益を考えると、修理業者として、こんな修理は勧めるべきでないと思います(この辺りの事情は筆者のブログ記事”パソコン故障は修理か新品買い替えか 変わる修理の常識”をご参照下さい)。
- 査定金額の6万円に1~2万上乗せすれば、バリバリの新品パソコンが買える時代です。新品パソコンは性能も良く、製品保証も1年ついて安心できます。
- 一方4年経過したパソコンは、全部の部品が劣化しているので、今回の修理で一部の部品を新品にしても、交換しなかった部品は劣化したままで、いつ別のトラブルを起こすか分かりません。
- 修理の保証は、ないか期間が短いので、別のトラブルが起きても、お客様負担となり、結果新品パソコンに買い替えた方が安かったなど、お客様の不利益につながります。
- 要は、修理業者は”お客様の利益を守る”理念を持ち、それに基づいた事業運営をするべきだと思います。
- 例えば修理をせずに新品に買い替えた方がお客様の利益につながると判断した場合、”修理ではなく新品購入をお勧めする”など、修理でえられるであろう利益を犠牲にしても、お客様を優先する理念に基づいた対応をすべきとの意見です。
以上まとめると、修理業者としての筆者は、”お客様の利益の代弁者”として行動していきたいとの結論となりました。
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コメント
古い記事に恐縮ですが、どの作業内容に幾らの値段をつけようが全くの自由と思います。
勝手に作業され請求されたなら兎も角、記事にあるように納得行かなければ他所に行くだけの話ですから他者をわざわざ悪く言うの大人気ない。
ぶっちゃけて言うならば取れる所から取るのが商売、知識を蓄え自衛する手間を惜しむ人が多く払うのも摂理。
そんな風に思います。
投稿: . | 2016年11月21日 (月) 14時15分
>投稿: . | 2016年11月21日 (月) 14時15分
何をムキになってるんだか?
身に覚えのある人なのかな?
投稿: 通りすがり | 2016年12月16日 (金) 15時42分
「2016年11月21日 (月) 14時15分」は、日本の方ではないんでしょうね
日本人は仕事とお客様に誠実なんですよ
代金に多少の差はあれど、6万はボリすぎでしょ
いろんな条件で差があるのはかまいませんけどね
銀座のクラブでドンペリ1本10万って言われても、場所とステータス考えたらそれはそれでありだし。
ただ、このケースで6万は日本人の値付けじゃないね(笑)
投稿: >2016年11月21日 (月) 14時15分 | 2017年1月31日 (火) 17時43分
どの作業内容に幾らの値段をつけようが全くの自由と思います。
とか何を言ってるかよく分かりません、問題の無い機器を交換してお金を請求するのも自由なんですね。
投稿: | 2017年3月19日 (日) 10時49分
基板を剥がして電池ホルダーを交換したならまだ納得いくが、100円ショップで買える電池を交換しただけで、1万円の修理代はいかがなものか? (どうせMEMTEST86+で)メモリチェックをしたとしても1H 1500円で換算しても1万円の修理代は高すぎ。
P社のRMA設備には数百万~数千万のテスターがゴロゴロしていて修理とあれば100%完璧に直せる設備がある。
たまたま電池交換で直ったからラッキーだっただけで、メインボード上のサウスブリッジに問題があったらあなたに直せますか?BGAを交換出来る設備がありますか?
(種明かしをしなければ) P社は知識と技術と設備があるから6万円。あなたは洞察力と知識があって、たまたまラッキーだったから1万円。
妥当な値段だと思います。
投稿: | 2017年9月13日 (水) 11時14分